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金属への挑戦 天風の「why?」からはじまった。

金属への挑戦

2008年春、ふと金属って墨で書けるの?と頭に浮かんだ。

まずは金属に少し詳しい友人に尋ねたところ 「墨ははじいてむりだろう」との答え、私の心の中で「why?」。

金属メーカーにも聞いてみたところ答えは同じ「無理です」またも私の心は「なんで?」で も、今まで私は金属に墨が付着しはじかないで定着しているところを何度も見てきている。

それは私が普段使っている文鎮である、文鎮の素材は真鍮、その文鎮 に墨がたまたま付いた時、墨ははじかず付着し乾くと定着している、「why?」。

「必ず書ける!」9月の私の個展の目玉に金属の作品を発表する!

公表したら周りのみんなは私を笑う、当然 のことながらなにも手掛かりがない状態、でも私は少し自信があった、再度金属を取り扱う会社に連絡を取る、一生懸命説明をして作品用の金属を作ってもらえ ないか話をしたが、「金属は墨をはじきますよ、それに注文には数量が・・・」断られる時間だけが過ぎていく、結局あきらめるしかないか、でも、あきらめな いのが私のモットー!

ここは大阪、技術屋と言えば東大阪、商工会議所にいきなり電話、はじめはやっぱり無理との答え、でも一生 懸命話をした後電話を切る。
暫くして商工会議所より連絡が入り今回お世話になった技術屋Mさんを紹介してもらうことに、そこでもはじめは「無理でしょう」 と言われたが色々説明し協力をお願いしたところようやく引き受けていただくことになった、構想から2か月一歩進んだ。

そして金属の表面処理について、大事なことはとにかく墨を金属の表面に定着させること。
墨の粒子は約 10~300ナノ(1ナノは1/1000ミクロン)油煙墨を使用するとして油煙墨の粒子は約30ナノ、この粒子の定着場所(墨の寝床)を表面に作ること、 尚且つ墨がはじく一番大きな原因の油分を表面から100%取り除くこと、実はこの油分を取り除くことが課題であった。

製造工程と運搬の際に表面に作業者の手袋が下手に触ると油分が付く、素手で触ると金属表面に油分がない分 触ったところだけ酸化が進む、実にデリケートなもの、使い勝手の良くない素材だと思い知らされる。当然、表装(額装)の時も同じことで職人は表面に触るこ となく仕上げなければならない。今更ながら和紙の使い勝手の良さに感心する。

様々な話し合いの結果、いくつかのサンプルを作り実際に墨をのせてテスト、その中から最も筆の線質を表現しやすいであろうと思われるサンプルの表面処理方法に決定する。だが表面の油分の完全除去は細心の注意をはらっても製造・運搬工程上約束は難しいとのこと。
そして、金属の板自身の歪みを極力少なくしなければ美術作品として完成はしないことからレーザーカッターの使用できる金属にすることになった。

サイズ、形(丸・角・扇形)をつめる、そして、ひと月ほどで金属が届く、しかしすぐには取り掛かれない、 万が一表面に油脂等が付いて無いか確認のため一週間置くことにする。案の定、表面にはどこかの工程で付いてしまった油脂の部分が酸化しその箇所がうっすら と変色してきている、ここから先の工程は自分の手で何とかしようと決めていた、金属の表面には墨の定着場所は確保されているあとは変色部分の処理と油分の 完全除去、すべては手仕上げ、液体洗剤・石鹸・熱湯・シンナー・色々・・・試行錯誤の上いくつかの組み合わせ(詳しくはナイショです)で何とかクリアー。

次は、「はじかない墨」、ペンキを混ぜれば簡単確実だが書道家としてはそんな混ぜ物は絶対したくない、墨を濃くすれば?、膠の%をアップ?、書作品ならではの 潤滑 とくにかすれを表現したい、今度は水分が問題になる。

ここでまた、思ってもいない事が、なんと金属が墨の成分により付着した瞬間から即酸化が始まってしまい書 き直しがきかない、まったくの予想外の不思議体験をすることに。
無骨な金属が純墨に負ける、せっかく作った金属板が・・・・高価な金属も書き損じでただの ゴミになる。洗えば何度でも書き直しが出来ると思っていただけにショック、一発書きの真剣勝負。

そ して、ここには書けないぐらいの失敗の連続、それでも何とか出来上がった作品を表装屋さんへ届ける、今度は運搬するときに私の無知からまたしても大失敗!

作品が全てパー・・・。すでに7月中旬、9月の個展まで3カ月をすでに切っている状態(金属に墨で書いて乾燥させるのに10日はかかる)、Mさんに材料の 調達を2週間以内でお願いする、もうゆっくりしている時間はない、この無理なお願いも何とか聞き入れて頂き再び一から作品作り、その後、表装屋さんにも頑 張って頂き個展までにすべてを完成させ、無事9月の個展でおそらく日本初の金属の書作品発表をすることが出来ました。


自分一人では何も出来ないけれど皆が力を合わせれば何とかなる!
人と人との絆の素晴らしさに心から感謝しました。
書ききれない失敗談はどこかの機会にお話できればと思っています。

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